脂質二分子膜は、あらゆる細胞膜における主要な構造要素です。脂質二分子膜は様々な種類の脂質と多様な膜タンパク質を含んだ構造となっており、細胞や膜自体の特性、機能に密接に関連しています。その複雑な構造により、脂質二分子膜内で起こる現象の研究は非常に難しいと言われております。そのため、人工的に構成した脂質二分子膜内に膜タンパク質を再構成する方法や、天然の精製膜断片を使用する方法が一般的に用いられます。人工の脂質二分子膜での記録は、単一のイオンチャネルの作用をリアルタイムで見ることができるため、イオンチャネルそのものの機能、および膜の組成や測定溶液の組成がイオンチャネルに与える影響を詳細に観察することができます。その一方で、トランスポーターやポンプのようなコンダクタンスの低い膜タンパク質は、電気的な記録が難しいと言われています。そこで、コンダクタンスの低い膜タンパク質の場合、電極上に固定化したsolid-supported membrane(SSM)上に目的の膜タンパク質を含むプロテオリポソームまたは天然の膜画分を大量に固定化することにより、電気的な測定を可能としました。
Solid supported membrane(SSM) テクノロジーではパッチクランプ法のようなこれまでの電気生理学とは異なり、生細胞の代わりにネイティブまたは人工の膜小胞をサンプルとして使用します。膜タンパク質を再構成したプロテオリポソーム、オルガネラや細胞膜の膜断片など、様々な膜サンプルが使用できます。パッチクランプ法と最も異なる点は、複数の膜サンプルをセンサーに固定化することで、約109個にも及ぶ多数のトランスポーターを同時に測定する点です。そのため、輸送速度が遅い膜タンパク質でも高いS/N比で検出できます。本技術を利用することで、膜タンパク質の電気生理学的特性の研究や、ハイスループットでのスクリーニングが可能です。
人工脂質二分子膜はイオンチャネル、ポリン、毒素や人工的にデザインされたナノポアのようなポア形成分子の電気生理学的な研究に理想的なモデル系です。二つの溶液相を隔てる平面脂質二分子膜は、膜活性分子にとっての”非伝導性基質”となります。膜の両側に電極を配置し、正確な電圧を印可した際に流れる非常に微小なイオン電流を検出することで、膜に埋め込まれた分子を1分子レベルで解析することができます。